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#5『助け船?』
それ以来、何となく津田くんと話すことが多くなった。
バスケ部らしい背の高いすらりとした体格で、長めの前髪がさらさらしている。席も近かったし、彼は宿題も真面目にやってくるタイプだ。
「ねぇ、英語の長訳やってきた? お願い、見せて」
両手をあわせて拝むようにすると、彼はスッとノートを差し出してくれる。
なんて便利なんだ。
「わー、ありがとう!」
他の人のノートって、そうでなくても見せてもらうのにちょっと緊張するけど、男の子のノートってなると、やっぱりもっと緊張する。
ハラリとページをめくった。
彼の書く文字は、縦に細長い、少しクセのある角張った字をしている。
そんなのを、見ているだけでも楽しい。
「津田くんの書く字って、津田くんって、感じだね」
「は? どんな字だよ」
彼は、私のノートをのぞき込んだ。
「志保ちゃんの字は、志保ちゃんって感じだね」
私はびっくりして、彼を見上げると、津田くんはニッと笑った。
そうだ、体育館にタオルを届けに行ったとき、下の名前を聞かれて、「志保ちゃんと、千佳ちゃんね」って、言われてたことを、ここで思い出した。
「私の字のことは、どうだっていいの」
彼から隠すように、ノートに覆い被さる。
「そんなに近づけたら、目が悪くなっちゃうよ」
彼の指先が私の髪に触れ、その束をすくい取った指から、そっと流れて落ちた。彼はそのまま前を向いて、別のノートに何か作業をしている。
その横顔はいたって普通、平穏そのもので、もうそれ以外ことは、頭からすっかり追いやられたみたい。
私の髪に触れたことも、きっと彼にしてみれば、今やっている古語の問題それ以下の存在、だから私も、和訳の書き写しに集中しよう、だって、早く返さないといけないし、どうでもいいことにドキドキしている場合じゃない。
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