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「なんだ、今日は市ノ瀬の当番だったのか」
急に太い声がして、振り返ると上川先輩の姿があった。
「なんだよ、だったら来るんじゃなかったなぁ」
よかった、私は逆にほっとして、上川先輩に駆け寄る。
「お疲れさまです」
「おう、お疲れさま」
そのまま掃除を始めた上川先輩にくっついていれば、この変な雰囲気に飲み込まれなくて済む。
「あれ、小山って、上川先輩と知り合いだったの?」
市ノ瀬くんのその言葉に、上川先輩は私を見上げた。
「生徒会総務の子だよね?」
腕に腕章をつけているから、間違いない、私は生徒会総務の子。
「はい、そうです」
前にもここで一緒に掃除をしたこととか、何回もお互いに挨拶を交わしたことがあるとか、部活の途中にグラウンドで話したこととか、この人には全く覚えてもらってないんだなぁ、
まぁ、どれも全部、他の人とついでにいた時のことだったけど。
「前にも掃除、一緒になったっけ?」
「な、なりました」
彼は、「そっか」とだけ言って、そのまま何にも気にしていない様子だった。
いいんだ、私だって、変な先入観持たれた状態で、接するのも辛い。
これからゆっくり、覚えてもらえれば、それでいいんだ。
「あ、手伝います」
「おぉ、ありがと」
「か、上川先輩も、サッカー部なんですか?」
初めて、彼に向かって直接名前を呼ぶ。
サッカー部だってことは、もちろん知ってるけど、返ってくる内容が想定内の返事だと、次の会話の糸口を、前もって準備しやすいからいい。
「うん、よく知ってるね」
「市ノ瀬くんが、前にそう言ってたから」
私とこの人の接点、生徒会、市ノ瀬くん、立木生徒会長、サッカー、公園清掃……。
「なんだお前ら、ダッセ、こんなところで何やってんの?」
突然、同じ制服を着た数人の男女のグループが、公園内に乱入してきた。腕章をしていなかった奈月に、男子の一人が絡む。
「え? マジメ? なにしてんの? 何かいい物でも落ちてた?」
奈月の足元の地面を蹴飛ばして、ワザと土ぼこりをあげる。
数歩後ろに下がった奈月を、彼らは笑った。
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