#6『掃除当番』

2/4
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
「なんだ、今日は市ノ瀬の当番だったのか」  急に太い声がして、振り返ると上川先輩の姿があった。 「なんだよ、だったら来るんじゃなかったなぁ」  よかった、私は逆にほっとして、上川先輩に駆け寄る。 「お疲れさまです」 「おう、お疲れさま」  そのまま掃除を始めた上川先輩にくっついていれば、この変な雰囲気に飲み込まれなくて済む。 「あれ、小山って、上川先輩と知り合いだったの?」  市ノ瀬くんのその言葉に、上川先輩は私を見上げた。 「生徒会総務の子だよね?」  腕に腕章をつけているから、間違いない、私は生徒会総務の子。 「はい、そうです」  前にもここで一緒に掃除をしたこととか、何回もお互いに挨拶を交わしたことがあるとか、部活の途中にグラウンドで話したこととか、この人には全く覚えてもらってないんだなぁ、 まぁ、どれも全部、他の人とついでにいた時のことだったけど。 「前にも掃除、一緒になったっけ?」 「な、なりました」  彼は、「そっか」とだけ言って、そのまま何にも気にしていない様子だった。 いいんだ、私だって、変な先入観持たれた状態で、接するのも辛い。 これからゆっくり、覚えてもらえれば、それでいいんだ。 「あ、手伝います」 「おぉ、ありがと」 「か、上川先輩も、サッカー部なんですか?」  初めて、彼に向かって直接名前を呼ぶ。 サッカー部だってことは、もちろん知ってるけど、返ってくる内容が想定内の返事だと、次の会話の糸口を、前もって準備しやすいからいい。 「うん、よく知ってるね」 「市ノ瀬くんが、前にそう言ってたから」  私とこの人の接点、生徒会、市ノ瀬くん、立木生徒会長、サッカー、公園清掃……。 「なんだお前ら、ダッセ、こんなところで何やってんの?」  突然、同じ制服を着た数人の男女のグループが、公園内に乱入してきた。腕章をしていなかった奈月に、男子の一人が絡む。 「え? マジメ? なにしてんの? 何かいい物でも落ちてた?」  奈月の足元の地面を蹴飛ばして、ワザと土ぼこりをあげる。  数歩後ろに下がった奈月を、彼らは笑った。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!