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ずっと真剣に二人で話し合っていた上川先輩の顔が、ふっと笑顔になった。何かを彼女にささやくと、?C水さんは笑って、その脇腹に軽いパンチを入れる。
上川先輩も笑いながら痛がるフリをして、彼女の髪に頬を寄せた。上
川先輩と視線がかち合って、私はパッと顔を背ける。それに気づいた彼女は、彼の元からそっと離れた。
「あぁ、ゴメンね、定時報告、もういいよ、続き、行ってきて」
にこっとした笑顔で、彼女は手を振る。
立木先輩が、大きなコンプレッサーを持って帰ってきた。
「慶、これで大玉に空気入れてみて」
「了解」
立木先輩が両手で運んできたそれを、彼は片手で軽々と持ちあげる。
私はうつむいていた。
顔が上げられない、まっすぐに、この人の顔が見られない。
「志保ちゃん、次は、体育館横の用具係だよ」
梨愛の声に、上川先輩も振り返った。
「あぁ、じゃあ、一緒に行くか?」
私は先輩に、ちゃんと名前を覚えてもらってるのかな?
今は体操服じゃなくて制服だから、彼がもし名前を覚えていなくて、こっそりチェックしようとしても、分からないじゃない。
名前を見て、呼んでもらえることも出来ない。自分からは話しかけることもできないし、話しかけられることもない。
どうすれば、もう一歩この人に近づけるんだろう。
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