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「なぁ、小山、お前話し聞いてる?」
ふいに、市ノ瀬くんにそう言われて、私は我に返った。
「え? なに?」
彼はため息をつく。
「まー、別にいいんだけど」
上川先輩が空気穴をみつけて、そこにノズルを差し込んだ。
スイッチを入れると、さらに大きな音がして、徐々に大玉が膨らんでいく。
「これ、休み休み入れないと、コンプレッサーがすぐ動かなくなるみたいですよ」
梨愛がそう言って、上川先輩がため息をついた。
「あーそうか、分かった。本部には、何とかするって、連絡しといて」
私は、上川先輩を見上げる。彼は、チラリと目を合わせて、「じゃ、よろしくね」とだけうなずいて、私に背を向けた。
よろしくって、誰によろしくって言えばいいんだろう、立木先輩? それとも?
「じゃ、次に行こうっか」
梨愛がそう言った。
「うん」
私はうなずいて、その場に背を向ける。
「じゃ、市ノ瀬くん、頑張ってね」
梨愛は手を振っていたけど、私は代わりに頭を振る。
ダメダメ、余計な事は考えない、上川先輩と?C水さんとか、そんなのただの友達に決まってる。それ以外に、どんな関係がこの世に存在するっていうんだろう、そんなのありえない。
東門へやって来た。ここにはすでに体育祭の看板が掲げられていて、津田くんが同じバスケ部員の友達と来ていた。
「あぁ、志保ちゃん、正門から、東門、西門って巡回ルートで、よかったんだよね」
「う、うん」
彼を見上げて、何とかそう答える。今の私は、変な顔してない、平気、な、はず。
「ここで、しばらく立ってればいいの?」
「5分くらい」
「了解」
津田くんが握り拳を私に向け、グータッチを要求してきた。
私も迷わず軽く拳を握りしめ、グータッチを返す。
彼はそのまま、次の巡回経路の見回りに行ってしまった。
そうだよ、いま私が津田くんとしたみたいに、アレは何気ない挨拶、あの二人は、ただ普通に仲がいいだけだ。
チェックリストに目を落とす。
生徒会の仕事に集中することにして、私はその日を乗り切った。
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