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「お前、上川先輩に何かチクっただろ」
珍しく、市ノ瀬くんの方から、放課後の私に声をかけてきた。
「は? 何にも言ってないし」
「じゃあなんで、上川先輩が俺に委員会出ろとか言うんだよ」
そんなことで怒られても、私は何にも言ってない。身に覚えも全くない。
大体、どうして市ノ瀬くんが、あの先輩のことを知ってるんだろう。
ぐちぐちと文句を言い続ける彼を無視して、私は廊下に出た。だけど彼は、今日は部活に飛び出して行ったりなんかしないで、そのまま大人しくついてきている。
「お! ちゃんと来たな、市ノ瀬!」
生徒会室に入る手前の廊下で、ばったりと上川先輩に会った。
彼は市ノ瀬くんに飛びつく。
「あぁ、いい子いい子、お前はやっぱりいい子だなぁ!」
派手に笑いながら、嫌がる市ノ瀬くんの頭をぐしゃぐしゃにかき回す。それがしばらく続いた後で、ようやく解放された彼は、私の隣に座った。
「あの先輩と、知り合いなの?」
「ん? あぁ、上川先輩? サッカー部の部長だよ」
これでようやく、あの立木先輩の笑顔の謎が解けた。
「だから市ノ瀬くんも、頭が上がらないんだね」
「まぁね、それに、もうすぐ体育祭の準備が始まるから、ちゃんと出席しとけって」
確かに、今日の定例会の出席者は、いつもより多い。体育祭の準備となると、生徒会だけじゃ大変だから、各運動部系にもお手伝いを頼むことになっている。
「小山さんは、なに部だったっけ?」
ふいに、市ノ瀬くんが聞いてきた。
「私? 帰宅部」
彼はそれに関して、特に何らかの興味があったわけでもなかったようで、「ふ~ん」とだけ言って、指先でペンを回し始めた。
話しがそこで終わってしまったことに、そんなつまらなさそうな顔をされても、私が帰宅部なのは本当なんだから、これ以上どうしようもない。
机に肘をつき、いかにも退屈そうにしている彼を無視して、私は前を向いた。
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