第1章

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 電車は終点に到着した。終点の駅はK市の中心地にある。観光地だけあって改札の中に地元の特産品や銘菓を売るお土産コーナーが設置されている。お昼時だからか駅弁屋さんに4、5人ほどの列ができていた。  駅は東と西に改札がある。目的の下宿先は歩いていくなら東口改札からだけど、今日は家主である叔父の直さんが車で迎えに来てくれることになっているので西口改札から出る。西口を出ると右手に公園があって敷地内に大きな時計台がある。その時計台を目印にして待ち合わせに使われることが多い。その時計台の針は12時15分を指していた。 私が直さんの家に下宿する理由はジャーナリストについて勉強させてもらうためだ。かつて直さんは内戦の最前線まで行って取材を行う、いわゆる戦場ジャーナリストだった。今は日本に帰ってきていて、実家のあるK市でフリージャーナリストになっている。K市が観光都市なので、主に観光誌やガイドブック、フリーペーパーやコミュニティ冊子に掲載する記事の執筆や写真撮影をしている。  待ち合わせの時間は12時半だったので少し早く着いてしまった。今日からこの街に住むと思うと今まで何度も来たはずなのにいつもとは違った景色のように思えた。実家からここまで1時間ほどしか経ってないのにずいぶん遠くに来てしまったような気分がして、少しだけ寂しかった。  スマートフォンをいじりながら時間をつぶしているとあっという間に待ち合わせの時刻になっていた。でもまだ直さんの姿は見えなかった。一般車は大体タクシーロータリーの入口か出口の邪魔にならないところに停めていることが多い。入口の方に視線を動かすと緑色にカラーリングされているタクシーの列の最後尾に直さんの車があった。シルバーのダイハツ・ハイゼットがハザードを付けて停まっていた。 「もう来てるじゃん」 私は車に近づいて、助手席側の窓から運転席を覗き込んだ。車に直さんの姿はなかった。ぐるりと周りを見渡す。 「ん?あれって・・・・・・」
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