ケイルとリモネード

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こんな時に、しかも目の前の人を待たせている中で辞書を開いて何をするつもりだと思っているのかしら私は。 そんなことは知ったことではないけど本当に大変そうだとは思っているの。こんな中で小さな文字を追っていくのはさぞ骨が折れる作業だと思う。こんな場所においてじゃね。・・いいえ、変ね。そんなはずはないもの。 そうね。そんなはずはなく、私にとってこの紙に描かれた字の大きさがなんだとしてその形を確かめることも叶わない。でも私はここに書かれた大事なその内容の一つ一つをちゃんと読むことができている。 見えないのに? そうよ。そうでなくては紙をめくる理由にならないじゃない?ねえ、どんな方法で私はこの本を読んでいると思う? そんなこと興味がないわ。それよりも、その本に書かれているその内容の方が気になる。 どうして?状況からいってここに描かれている内容によってあなたの運命は決まるものかもしれないとあなたは思ったりしているから? ええ。わたしにとってあなたが今目にしている、いいえ、指でなぞりめくっているその本はとても重要なものかもしれない。 あなたの運命を決めるものだものね。 違うわ。もう決まっているのよ。 そう。でもこの本は私にとっても非常に大事なものなの。 その本はあなたの運命をも決めるもの? いいえ、私は私の運命を決められてしまわないためにこの本を持ち歩くものよ。いつの時も、ここにいる時は。 持ち歩いていればそれがあなたを守ってくれると? お守りみたいなものだと思ってくれては困るわね。わたしはちゃんとここに示されている内容を注意深く読んで全くその通りに歩いたり振り返ったりを振る舞っていかなければならないの。 マニュアルには忠実に。そういう厳しい言いつけなのね。 それは私のためだもの。なにか間違いを起こして足を踏み外したり手すりにしてはいけないものに体重をかけたりなんかして落っこちるようなことは決してあっていけないの。 ここはそういう場所なのね。 そう、あなたの目に映るよりここはずっとそういう場所。口で説明されないとわからないようなもの。 もしくは配布されたマニュアルを読むかしないとね。 ええ。あなたには御礼しなくちゃならないわ。 なにに対して?
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