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はっとした。翔一郎さんの過去の絶望がこめられているようにも思える、重く暗い声。
「ごめんな」
俺は混乱する。翔一郎さんはなにを謝ったんだろう。俺にじゃなくて、遠いなにかに謝ったようにも思えて、なにも言えない。
「いい年して、酒の勢いを借りなきゃいけないようなダメなヤツで」
俺は首を横に振り、唇をふれあわせるだけのキスをした。俺の考えすぎだと思いたい。俺はこれから、この人と一緒に幸せを積み重ねていく、それだけを考えていこう。
「やっぱり、一緒に寝かせて下さい」
俺の言葉に、翔一郎さんは霧が晴れたような笑みを見せた。ああ俺、本当にこの人のことが好きだ。そう思うと、また泣きそうになる。
「うん、そうしよう」
翔一郎さんが身体をずらして空けてくれた場所に身体を滑りこませる。男二人のベッドは、さすがに狭い。でもそんなことはまったく気にせず、翔一郎さんは俺の髪に顔を埋め、安心したように一つ息を吐いて、心身のスイッチをオフった。
この許されている感じが、ぬくもりが溶けあう幸せが、やっぱりまだ少し怖い。一夜の夢で終わるんじゃないかという不安も、消せない。
でも、翔一郎さんのことはもちろん、俺は俺のことももっと信じなけりゃダメだ。俺を選んでくれた翔一郎さんに、応えなけりゃ。
眠れない一夜になるかと思いきや、愛しいぬくもりが腕の中にある幸福感と安心感は、あまりに深くて。俺はあっという間に眠りに沈んだ。
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