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スマホのアラームが鳴っている。身体を包んでいるのはやけに薄くてすべらかな布で、身体になじんだうちのベッドじゃない。それに隣に誰かいる、のは……?
「うわっ……!」
飛び起きると、肩がぶつかるほどすぐ隣に、ぼさぼさ頭の翔一郎さんがいた。俺のスマホを手にして眉を寄せている。
「おはよう。これどうやって止めるの?」
「す、すみません……」
俺はスマホを受け取り、アラームを止めた。翔一郎さんがあまりにも当たり前に無防備に隣にいるから、朝っぱらから心臓と股間にくる。
「さすがに疲れが出たんだろ、よく寝てたぞ」
アラームが鳴り始めてから、たっぷり10分は経っていた。寝坊とまではいかないにしろ、不覚だ。
身体をひねって、サイドテーブルに置いていた眼鏡をかける。隣にすまし顔のベッドがあるのが、なんだか恥ずかしい。
「さて、帰る支度しないと。シャワー浴びてくる」
俺の不安は、杞憂に終わったどころの騒ぎじゃない。ずっとこうしてたみたいな空気を出されて、気持ちが完全に追いてけぼりだ。
「一緒に浴びるか?」
バスルームから顔だけ出して言う翔一郎さんに、俺はとっさに返す言葉もなくフリーズしてしまった。
「やっぱりお前はまだ若いなあ」
俺はよっぽどひどい顔をしたんだろう。楽しげに笑って、翔一郎さんはバスルームのドアを閉めた。起き抜けの不意打ちは、ずるい。大人の余裕を見せつけられてしまった。
そうだ、恋人になるってこういうことだ。シャワーの音を聞きながら、俺は改めて中学生のように照れた。
ハルのツアーも終わり、今日からまた新しい日々が始まる。翔一郎さんと恋人として過ごせる日々が。
立ち上がり、カーテンを開ける。気持ちよく晴れた東京の空。穏やかな秋の陽射しを浴びる、誇らしげな東京タワーが近い。
あの東京タワーほどは無理でも、ドラマーとして男として、揺るぎない存在になって、翔一郎さんに寄り添い続けよう。一緒に幸せを積み重ねていこう。俺はそう、決意した。
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