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 会場から撤収後、近くのホテルで打ち上げがあった。ツアースタッフは必要最低限だったから、小さな宴会場を借り、打ち上げとしてはわりと豪華だった。立ち見が出たところも多かったらしく、マネージャーの大石さんとしては、ファーストツアーの大成功をしっかり祝ってやりたかったんだろう。 「いいツアーだったなあ」  翔一郎さんは赤い顔で、にこにことさっきから何度も同じことを言っている。昔からのつきあいの大石さんに頼まれて、翔一郎さんはハルをデビュー前からサポートしてきた。曲のアレンジも手がけているし、ツアー成功のうれしさは格別だろう。  ツアーラストを飾ったハルの新曲を、誰もがほめた。でも、全国一緒に回ってきたスタッフはみんな、歌の中の「君」が誰か分かっただろうに、それについては言いあわせたようにふれない。酸いも甘いも知るオトナの優しさってヤツなんだろうか。  俺はと言えば、これからハルと静也君がいつどうするつもりなのか、気づくと二人を観察してしまっている。つくづく、未熟で醜い自分が嫌になる。  静也君はここから少し離れたテーブルで、なかなかのハイペースで飲んでいる。おそらくはこの後のことを考えて、緊張で飲まずにはいられないんだろう。そんな静也君を横目で見ながら、俺もほとんどやけ酒に近い酒をあおる。  うらやましさ、嫉妬、さみしさ、愛しさ、せつなさ。ぐちゃぐちゃに混じりあった気持ちは、酒なんかで癒やせるはずがない。せめて俺も陽気に酔っぱらって、くだを巻いてみたい。 「さっきからぼーっとしてないか? 大丈夫か?」  少しとろんとした瞳で、翔一郎さんが俺の顔をのぞきこむ。 「さすがに少し気が抜けたのかも知れません」  正直に言う。ドラマーとしてはまだまだひよっこだから、こんな長いツアーは初めてで、終わってほっとした。ちゃんと完走できて、しかも翔一郎さんと一緒だなんて、本当に幸せだった。 「うん、ツアーは楽しいもんなあ。気が抜けたせいで風邪引かないようにな」 「翔一郎さんこそ」  俺の言葉に、翔一郎さんがまいったなというふうに、ふにゃりと首を曲げ、表情を崩す。酔っているせいか、その仕草が妙にかわいく見えて、劣情が刺激される。
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