01 襲撃者

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「グォオオオオオオッ!!」 それが叫び声を上げると、どこからともなく体が小さい何が現れる。 小さな体には、不釣り合いな程大きな上顎の2本の牙が、口先から下に向かって延びている。 前に出ようと暴れる体を四肢で繋ぎ止め、激しく揺れ動きながらキィキィとけたたましく鳴いている。 それらはとても興奮していて、そして何かを求めていた。 皆の視線の先には、欲求を満たすものが転がっている。 巨大な怪物が号令のような唸り声をあげる、するとそれらはカーブの死体に群がり中の綿を貪り始めた。  「嫌ぁぁあぁぁああぁっ!!」 それはリッピーの叫び声なのか、ケメンの母の叫び声なのか解らなかった、だがその声を聞き更に多くの住人が表に出てしまう。  個々に散らばる小さな怪物達、城下町は狂乱に彩られる。 小さな怪物は目につくもの動くもの全てに襲いかかる、目の前で繰り広げられる凄惨な光景から目が離せないリッピー。 ドスンと重く静かな音がお腹に響く、いつの間にかケメンの父を食らいつくした大きな怪物が地面に膝を付き頭を垂れていた。 ゆっくりとした足取りでそれは近づいてくる。 均整のとれていない体。 手当たり次第に接合したような、一貫性の無い継ぎ接ぎの塊にも見える。 道の先の家から、頭ひとつ出る程の大きさで、リッピーの家からもその表情がよく見えた。 怒り。 一歩毎に火の海を歩くような、苦悶の表情を浮かべ。 一歩毎に苦しみを怒りに変換しながら、氷柱のような鋭い視線を王城に向けていた。 それはケメンの父を喰らった怪物の前を通りすぎると、リッピーの家の前で止まった。 リッピーの手が届く距離にそれの右肩がある、それは王城を睨み付けていると、息を吸い込んだ。 肩のほつれた部分から腐った油のような臭いが漏れだし、リッピーの柔らかな毛を揺らす。 「グオオオオオォォォォォォッッッ!!」 「……ッッ!?」 突然の咆哮は、家を揺らし王城にまで至る。 至近距離で大音量を浴びたリッピーは、その意識を失った。 ゆっくりとした怒りを孕んだ足音が、王城へと向かっていった。
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