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比喩だ。
そんなのうまい比喩に決まってる。
さんざん乱暴して玩具にして
恥をかかせて僕を泣かしたくせに――。
そんな――たった一言で。
「……ずるいよ。お兄様はずるい……」
それでも僕は負けを認めざるを得なかった。
頬を撫でられ大人しく目を閉じた。
この人の支配を受け入れる時は
いつだって決まってそうしてきたように。
すべてを委ねて次を待った。
砂の城のように溶けてゆく自我を感じた。
征司は静かに立ち上がり
縛りつけていたことりの拘束を解いた。
「帰れ――金はきちんと払ってやる」
乾いた声が無機質に告げる。
ことりはやっとのことで立ち上がると
力の入らなくなった足を引きずるように出口へと向かってゆく。
だが――。
「待て」
本気なのか冗談なのか
征司はことりを呼び止め言った。
「連絡先を置いて行けよ。話がつき次第、義兄の相手をしろ」
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