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ザラザラしたパンの表面を撫でると
一口だけメロンパンを齧った。
あんたは大馬鹿――。
喋らないはずのことりが
僕に向かってはっきりとそう言った。
あの人はあんたのこと
ものすごく愛してるのに――。
「……分かったようなこと」
胸が詰まって
それ以上食べられなくなる。
僕は夜明けの湖面を見つめた。
藍色の闇の合間に立つ細波が
微かな朝陽を受け宝石を散りばめたようにきらめく。
まるでモネの水彩画みたいに美しかった。
立ち上がり覗き込むと
征司に絞められた――いや絞めさせた首筋が鈍く痛んだ。
僕はいまこそ
飛び込むべきかもしれないと思った。
だけどできなかった。
「飛び込むなら俺のシャツ、脱いでから行けよ?」
いつの間にか背後に征司が立っていて
僕を後ろからすっぽり抱いていたから――。
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