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ガラスが砕け散る。
もの凄い音がした。
ことりは怯えきったように身を丸め両耳を覆う。
口元だけ丸い形に開いていた。
声が出たならきっと
盛大に悲鳴を上げていたに違いない。
征司は肩で息をしていた。
さえざえと冷えた目で
己の乱心の痕跡をしばらく見つめていた。
が――やがて僕が身を沈めるベッドに
膝を折って腰を下ろすと
「俺がいつ……未来など欲しいと言った……?」
ぽつり洩らした。
「俺は正直、あの家は俺の代で滅んでもいいと思っている」
「え……?」
「無論俺が死んだら、あの家を欲しがる人間は山といるだろうが」
それでも――。
「財産も権利もそんなもの欲しいならみんなくれてやる」
征司の手が
泣き濡れた僕の頬に伸びた。
そして振り絞るように囁く。
「俺が生きているのは今だ――今手にしているものが俺のすべてだ」
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