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ハートフィールズの丘に風が疾走った。
夕日を溜めた草原は緋色の海の様で、波の様に草を揺らし、橙と藍の境界線を持つ空の向こうへ風に連れ去られそうになる。
ハートフィールズの草原の風は、昔から旅立つ者の背を押すのだと昔から伝えられている。それは違う海、違う国に帆を風で孕ませる船の旅では無く、心の中の有り様を探す旅なのだと昔、この地を治めていた剣の王が残した言葉だ。
この地の広い草原を駆ける風の響きは、そこに立つ者の心を波立たせるのだ、と。
丘の上には、二つの歪な巨大な影があった。一つは巨木。こぶが固まった太い幹に、伸びた枝が手を天に掲げた巨人の様な姿だ。夕日の逆光で、その姿を黒く染めている。老齢の桜の木なのだが、葉も花もまばらに僅かしか生えておらず、その寿命が幾数年で尽きかけているのがわかる。
もう一つの影は、更に歪で異形の―――巨大な人型そのものだった。
その巨人は、大きなワイン樽に似た巨大な腕を持ち、太く短い足はひざまずく騎士の様に降着していた。甲冑の様な装甲は鉄と木が組み合わされており、部分的に優雅な弦楽楽器の様な造形を見せているのだが、全身には古傷や破損、そしてそれらを補修した跡が残っており、さしずめ例えるなら、戦いに生き残った老騎士の風格を感じさせる。
その姿を、ロディ・リージットは立ち止まり眺めた。
夕日と夜の境界線に二つの影が対となり、額縁の無い美しい風景画の様だなと思ったのだ。
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