3/12
前へ
/12ページ
次へ
 ロディは、今年の夏に15歳になるハートフィールズ学園高等科の少年。  ウールで織られた濃紺のジャケットとベストは制服で、胸には学園のエンブレムが施されている。黒い革靴とギンガムチェックのズボンの裾は、雨上がりの泥道を歩いたせいで、少し汚れていた。毛先が緩めにカールしたダークブラウンの髪は、きちんと切り揃えられており、眼鏡の下の瞳は、良く言えば優しげ、悪く言えば気弱そうにも見える。  ロディは再び歩を進め、巨人の下に向かった。  近づくにつれ、巨人の身体からは無数の機械音が、節操無く大きく鳴り響いていた。細かく刻まれた連続音、金属が軋む破裂音、ハンマーで杭を打つ様な重低音。  それらはまるで、練習中のオーケストラの様に鳴り散らかしており、巨人の身体に仕舞い込まれた発条機関と呼ばれるギミックが作動している事を意味する。    巨人の胸部辺りに開かれた掌には、ロディと同じ制服を着た一人の少女が行儀良く座っていた。騒音も気にせず、彼女は本を開き、読書に耽る―――そんなふりをしていた。少女はロディがすぐ側まで来ている事に気付いているのに、無視をしているのだ。  心当たりが無いわけでもないのだが、自分を無視している様子に、ロディは少し困った顔を浮かべながら彼女に声をかけ続けるも、彼女はまだ、聞こえないふりを意識してし続ける。  少女はとても、美しい顔立ちをしていた。長い睫毛の下には物憂げなアッシュブルーの瞳。淡く濡れた唇は上品に結ばれ、彼女の知性と育ちの良さが覗える。  それらより、彼女の容姿で一番目に付くのは特徴的な髪色だ。  赤みを帯びた銀髪は、桜の花よりも鮮やかな桃色をつくる。その独特の髪の色と彼女の貴族の称号が、二つ名を授けた。  「桜の騎士」と。  だが彼女には、もう一つの不本意な二つ名もある。むしろ今は、その方で呼ばれているのだが。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加