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「茜先輩、どこまで行くんですか?」
「着いてからのお楽しみや~」
「京星先輩、知ってますか?」
「……着いてからのお楽しみ」
一番後ろを走っていた俺に並んだ卯月さんが声をかけてくる。
俺は言おうかどうか迷ってから、そう答えた。
茜に喚かれてもウザいし。
む~、と唸る卯月さんは、風に飛ばされた前髪を右手で直した。またすぐに飛ばされたけれど。
「次の角右に曲がるで~」
そう言いながら右に曲がって行く茜。
そういうのはもっと早くに言うべきだと思う。
松下さんが慌てて右に曲がる。
卯月さんも焦ったようにそれに続くが、少しバランスを崩した。
そんな卯月さんとぶつかりそうになった俺は、スピードを落として衝突を避けると曲がり角を曲がった。
曲がった先で、また卯月さんが隣に並んだ。
すみません、と謝った卯月さんに大丈夫、と答える。
こけたりしなくてよかった。
松下さんも大丈夫なようだし。
「本当にどこに行くんですかね? 家の方と反対方向だし」
「早く帰らないと駄目なのか?」
「あ、そういう訳じゃないですよ。ただいつもはこない方向なので、何があるのかな~と思って」
俺も最初、茜に引っ張られて行ったときは、どこに行くのか教えてもらえなかった。
いつも茜は初めてどこかに行く時は、行先を教えない。
聞けば返ってくる答えはケーキ屋だとか喫茶店だとか。
どこのだよ、と毎回思った。
最終的に折れたのは俺だった。もう聞くのを諦めて大人しく着いていくことにしている。
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