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暗い自室に入ると、俺は何かに躓いた。
「いってぇ……」
しゃがんで手に取ってみると、本だった。
いつも積んでいる本だ。きっと、落ちてきたのだろう。
いい加減、片づけないとな。
カーテンの開け放った窓からは、外の街頭の明かりが微かに入ってくる。
その無機質な明かりは、窓の近くの望遠鏡を照らしていた。
俺は手に持っていた本を、近くにあった本の山の上に置くと、望遠鏡に近づく。床に散らばっているものに躓かないように気を付けながら。
俺はそっと望遠鏡に触れてみる。
たまに拭いていたそれには埃はそれほど積もっていない。
今日は拭いておくか。
俺はベッドの下の引き出しから布を出すと、丁寧に望遠鏡を拭いた。
望遠鏡を拭く俺の手は、昔よりも随分と大きくなった。
身長だって伸びたし、体重だって増えた。
成長して、変わっているはずなのに。
それなのに、俺の心だけが止まっていた。
ずっと隣で星を見ていた親父がいなくなってから、それだけが成長していなかった。
いい加減に、忘れてしまえばいいのに。
でも、親父が出ていったことを忘れてしまったら、あの時親父と観た星空まで忘れそうで、できなかった。
忘れたくない。
あの日どれだけ手を伸ばしても届かなかった星を観たことを。
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