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黄金の満月が、所々で、小さな光を放つ漆黒に浮かんでいた。秋の終わり。僅かに枯れる木々。何処までも続く草原。
少し歩くと川が見えた。近付いて、膝を付く。川面に黄金が乱反射して、キラキラと歪み、跳ねていた。冷えたそれを、そっと両手ですくって口に運ぶ。喉から胃、内臓を網羅する心地よい感触。顎を拭う。ペロリと唇を舐めた舌は、紛れもなく人間の体温だ。その温度差に、深呼吸する。
その場に腰を下ろす。夜はまだ明けない。明けなくて良かった。このままであれば良い。水流がサパサパと脳に響く。強張った体を緩ませてくれる。解けた思考は、睡魔を誘う。ゆったりとそのひとときに身を浸し、一面に在る漆黒を見上げる。
誰にでも朝はやって来る。時間が解決してくれる。それは嘘だ。一体誰が決めたのだ。そうでなくては、この苦痛は苦悩は、胸の痛みは頭痛の終わりは、いつやって来るのだろう。
膝の間に顔を埋める。それでも朝はやって来る。この眠りが覚める時がやって来る。この場に相応しくないバイブの振動と、金切りみたいなジリジリ音が、この、満遍なく広がる静寂と癒しを打ち破り、人混みに紛れる為の、日常に引き戻しにやって来る。
もう一度、黄金と光の粒が浮かぶ漆黒を見る。此処が好きだ。好きなのに、もう行かなくてはならなかった。嫌でも分かる。終わりが来る。
こんな日々を終わらせる事は、実は容易だ、それなのに。理由を付けて実行出来ない、そんな毎日が息づいている。生きている。深呼吸する。
朝が来る。戦わねばならない。相手は嫌でも明ける世界。そしてこんな己の内。
答えは誰も出してくれない。黄金の跳ねる川でさえ、恐れの要らない筋道だけは、何度頼んでも示してくれない。
自分で探して、生きるしかない。
漆黒が白に溶けていく。
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