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これは
一人の男と恋をした
一人の遊女に仕えていた
小さな男の子の
小さな物語
「…阿理琴」
「はい」
「今宵のお客様の名前は?」
「万里小路有純卿でございます」
「そう…阿理琴」
「はい」
「支度をします」
「はい」
若紫様に仕えること。それが私の役目であり、それが私の一生。
「阿理琴。今日は紫色の羽織を」
「かしこまりました」
若紫様は、着替え、化粧を、私以外にさせることを許さない。
若紫様は、私以外に側用人を務めさせることを許さない。
「白粉をもっと厚う塗っておくれ」
「若紫様の玉のように白いお肌にはこのくらいで十分だと…」
「ここ幾日かろくに寝ていない。疲れた女の肌など見せられぬよ」
「はい…」
「若紫様。万里小路有純卿がお越しになりました」
「お初にお目にかかります。若紫と申しまする。あちらの部屋に床のご用意が出来ております。さぁ…今宵一夜限りの夢にお狂いくださいな…」
「ん…また来る」
「えぇきっと…お待ちしております…」
「…若紫様。今宵はもうお休みに…」
「なぁ阿理琴…外がどんなに晴れていても…吉原は濁った雨のような音色を奏でるのですね…」
「…はい」
若紫様はとても白い。
まるで雪のように
魂が抜けたようなお方だった。
私はそれを
美しいと思っていた。
「阿理琴」
「はい」
「今宵は…」
「水野純義様でございます…」
「…支度をします」
「はい…」
「若紫様。水野純義様がお越しになりました」
「おぉ…流石吉原一の人気者の遊女だ…」
この男と出会った日から
若紫様は、変わっていった。
「今宵は俺と話をしてくれないか?それで終わりでいいさ」
「まぁ…ですが…」
「俺は今年で19になる。お前さんは?」
「御年18になりまする…」
「そうか。なぁ、互いの年も知らないような奴がいきなり睦み合うなんて酷い話だと思わねぇか?俺があんたを抱くのはあんたが俺を気に入ったらだ。それでいいだろ?」
「…」
「まぁそう言ってる俺も吉原一の遊女が見てみたくて来ただけなんだけどよ!抱きに来といて何言ってんだって話だよなぁ」
「…うふふ……この若紫…とても楽しゅうございます…だって…こんなにお客様に興味を持てたのは初めてなんですもの…私は…貴方様に抱かれとうございます…今宵…私を買っていただけませんか…?」
「…理性きかんよって…そんなこと言われたら…」
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