1 あなたとの距離

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 薄闇の下で、大切そうにタオルを抱きながら朔之助は笑った。  今日、初めての笑顔。  舞台でも見なかった、いい表情。 「取り替えてくる。きたない使い古しを使わせて、ごめん」 「いいよ。これがいい」  構わず、朔之助は伊都子のタオルを使い続ける。  恥ずかしい。  奪い返そうとすると、身体をよじって逃げられた。  けれど、雨の水分を拭くだけではだめだ。  着替えなくてならない。  風邪でもひいて今後の公演に支障を来たしたら、大変なことになる。 「朔ちゃん。中に入って」  伊都子の家には男性の着替えがないので、とりあえず母が朔之助の服を持って帰るまで、自分の浴衣にでも着替えてもらおうと考え、伊都子は朔之助を自分の部屋に招いた。  電気をつけても、明るさに欠ける地味な自室に。
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