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朔之助は伊都子にされるがまま、だらりと脱力しておとなしくなってしまい、積極的に着替えようとかいう意識は皆無だった。
歩き疲れたのかもしれない。
萎れたススキのように、元気がない。
雨の中にいたのは、一時間どころではないはずだ。
早くしないと、ほんとうに風邪をひいてしまう。
舞台での疲れの上に、雨の強行軍。
「朔ちゃん。ふざけてないで着替えて。しないなら、こっちから脱がせるよ」
「できるなら、どうぞ」
「そうですか。では、遠慮なく」
伊都子は白いシャツのボタンに手をかけた。
ひとつずつ、丁寧に外してゆく。
肌に張りついているシャツをそっと剥がしてゆく。
朔之助の規則的な息遣いと雨の音だけが、やけに大きく聞こえる。
いやに静かな夜だ。
ひどく緊張していた。
自分の、手の動きが固い。
朔之助の身の回りの世話はしていても、こんなに接近することはまずない。
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