1 あなたとの距離

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 朔之助は伊都子にされるがまま、だらりと脱力しておとなしくなってしまい、積極的に着替えようとかいう意識は皆無だった。  歩き疲れたのかもしれない。  萎れたススキのように、元気がない。  雨の中にいたのは、一時間どころではないはずだ。  早くしないと、ほんとうに風邪をひいてしまう。  舞台での疲れの上に、雨の強行軍。 「朔ちゃん。ふざけてないで着替えて。しないなら、こっちから脱がせるよ」 「できるなら、どうぞ」 「そうですか。では、遠慮なく」  伊都子は白いシャツのボタンに手をかけた。  ひとつずつ、丁寧に外してゆく。  肌に張りついているシャツをそっと剥がしてゆく。  朔之助の規則的な息遣いと雨の音だけが、やけに大きく聞こえる。  いやに静かな夜だ。  ひどく緊張していた。  自分の、手の動きが固い。  朔之助の身の回りの世話はしていても、こんなに接近することはまずない。
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