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「下は、脱がさないわけ?」
明らかに朔之助は伊都子を試していた。
伊都子の手は朔之助のベルトにかかったまま、動いていない。
さすがそれ以上までするのは、どうかと迷う。
「下着まで、冷たい。風邪をひいたら、着替えさせてくれなかった伊都子のせいだな。週刊誌にそう書かせるよ」
「どういうこと?」
「沖原家には、朔之助のお世話も満足にできない使用人がいると。邸内での連携が取れていなかったがために、朔之助の初座頭公演は失敗したと」
「そんなの、できるわけないよ」
「やるさ。今回の源氏物語を足掛かりに、襲名披露まで一気に羽ばたくつもりだったんだが、そううまくは、いかないものだ。くそっ。源氏の君、俺には向いていなかった。彼の心情が分からない。たくさんの女性を愛し、別れても生きている意味が」
「朔ちゃんにぴったりだよ。数々の浮名。禁断の恋。愛し、愛され」
「心底惚れた女を自分のものにできないなんて、情けないだけだ」
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