1 あなたとの距離

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 だんだんと、ばかばかしくなってきた伊都子は、目の前の朔之助をマネキン人形かなにかだと思って、一気にベルトを外してデニムも下着もすべて、床の上に落としてやった。  朔之助の身体からは、目を背けている。  だいじょうぶだ。できた。  けれど、不意に触れてしまった脚はぞくりとするほど、冷たい。  伊都子は思わず屈み込んで、朔之助の腿に触れてしまった。  あたためなければ、というとっさの判断だった。 「こんなになるまで、東京を歩くなんて。革靴だったんでしょ。濡れたものは洗濯して、届けておくか……ら……」  伊都子の声は、かすれて終わった。  朔之助が伊都子を頭の上から抱きしめたからだ。 「伊都子」  突然だった。  十年以上間近で暮らしてきたが、朔之助は過去に一度も伊都子に恋や愛を訴えたことはない。  たとえ、冗談にでもなかったことだ。  止まりそうになる息の下、伊都子はかろうじて声を出す。 「朔ちゃん、どう……したの?」  もちろん伊都子は抗った。  しかし、もがけばもがくほど、朔之助の身体の中に己がすっかり取り込まれてしまう。
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