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伊都子はため息をついた。
結婚を控えていながら、どうして自分とあんなことをしたのだろうか。
伊都子は悩んだが、朔之助は座頭公演が終わるまで、とうとう一度もお宅に帰ってこなかった。
理由を聞くこともできない。
しかし、帰宅したところで聞く勇気もない。
たった一夜の過ちだろうが、伊都子にとっては初めてのことだった。
女に生まれたからには、それなりに期待していた。
好きな人と、幸せに結ばれる夢を見ていた。
奪われるようにして過ぎた嵐のような昨夜を、恨まずにはいられない。
伊都子の母も、朔之助と娘とのことには薄々感づいているはずなのに、なにも言ってくれない。
そろそろほんとうに、家を出るべきなのかもしれない。
朔之助の婚約者にも、申し訳ないと思う。
すでに決まった話があると知っていたら、絶対に部屋には入れなかった。
下心を秘めていた朔之助がいちばん悪いけれど、伊都子にも甘さや隙があった。
朔之助を信じ過ぎていた。
ずっと好きだったのだ。憧れていたのに。
昨夜のできごとは、事故だ。忘れなければならない。
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