2 婚約

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 それなのに、思い出してしまう。  次第に火照ってゆく、朔之助の身体。吐息。指。匂い。自分を呼ぶ声。切ない顔。  ひとつひとつ、鮮明に記憶の中に刻んでしまっている。  見たくない見たくないと努めて突っぱねていたのに、無遠慮な使用人はどこから手に入れたのか、伊都子に婚約者の写真さえ披露してくれた。 「将来、このお宅に住むかもしれないのよ。お顔ぐらい、覚えておきなさい」  お宅には駿哉がいる。  婚約者のお嬢さまが駿哉の存在を認めるとは、考えづらい。  若い夫婦は沖原家には住まないだろうと、伊都子は思う。
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