150人が本棚に入れています
本棚に追加
/295ページ
それなのに、思い出してしまう。
次第に火照ってゆく、朔之助の身体。吐息。指。匂い。自分を呼ぶ声。切ない顔。
ひとつひとつ、鮮明に記憶の中に刻んでしまっている。
見たくない見たくないと努めて突っぱねていたのに、無遠慮な使用人はどこから手に入れたのか、伊都子に婚約者の写真さえ披露してくれた。
「将来、このお宅に住むかもしれないのよ。お顔ぐらい、覚えておきなさい」
お宅には駿哉がいる。
婚約者のお嬢さまが駿哉の存在を認めるとは、考えづらい。
若い夫婦は沖原家には住まないだろうと、伊都子は思う。
最初のコメントを投稿しよう!