ワガママな待ち人

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海面が光を反射させてキラキラ光る。 その向こうには決して手は届かないけど、いつも身近にいてくれる蒼があった。 私はこの景色がスキ。 無音で、孤独で……世界に包まれている気分になれるこの場所がスキ。 「何やってんだよ!」 世界が崩れていく。 私の腕を鷲掴み、煩い濁声で話しかけてきたのは最近できた兄だ。 「おい!アリサ!」 「聞こえてる!うるさい!!」 兄の手を振り払い、離れる。 大好きな場所から無理矢理引き剥がすなんて最低だ。陽はまだ高い。まだあっちの世界に浸れる時間はある。 「おい、どこ行くんだ!」 「あっちよ。付いてこないで!」 付いて来ようとする兄を睨んで、私は海の沖へと進んだ。 しばらく進んでから確認したけど、兄は付いてこなかった。 「ふん」 兄は本当の兄じゃない。母さんが連れてきた男の子供だ。歳は十も離れてる。 今日は新しい家族で行く、初めての家族旅行だ。場所は隣の県にある海で、私が提案した。 義父が来てからずっと拗ねていた私からのリクエストはあっさり通って、この大切な思い出の場所になった。
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