別れを待つ

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「ぱたぱた飛んでいるのは、鳥ですか。 いいえ、違います。あれは飛行機雲です。 長く連なる飛行機雲です。 風に揺れて動いている。 貴方は私のノスタルジア。 私は貴方のヘゲモニー。 花は私達の何なのでしょう。 ぱたぱた飛んでいるのは、鳥ですか。 いいえ、違います。あれは飛行機雲です。 薄くなって消えて逝く飛行機雲です。」  僕は独りで教室に残り、日暮れの外を眺めながら詩を詠う。自分で作った詩がほとんどだが、幾つか自分の好きな詩人の詩も容れて。机には、僕がやらずに溜め込んでいた宿題が広げられている。 「…まだかな…」  僕は呟いた。僕は誰かを待っている訳では無い。日が沈むのを待っている。日が沈みきった、真っ暗な空が見たい。 ──早く。早く。消えてくれ。──  只々、そう思って外を眺めている。僕は夕暮れが嫌いだ。まるで、戦争の空襲を思い出させる赤は、僕の奥にある戦争の記憶を呼んでくる。  夕暮れは赤に燃える空襲、ならば、日が沈みきった、真っ暗な空は?夜空は、空襲後の黒い灰になった家屋なんかと似ている。そして、夜は静かで、月や星は、僕を置いてった何かに思える。それは、家族や友人かもしれないし、僕の忘れた記憶かもしれない。それに見られていると思うと、不思議な感じがする。僕はこの不思議な感じが好きなのだ。 ──早く。早く。消えてくれ。──こんな、戦争の記憶など、いらない。──
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