君に会いたい。

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君に会いたい。

君を失って何日か過ぎた。あの日から僕の時間は止まったまま、抜け殻のように生きている。葬式も通夜も終わったというのに、僕は未だに来るはずのない君からの連絡を待ち続けている。 僕は、君が1人で暮らしていたマンションの一室に来ていた。部屋には向かい合う2つの座椅子とコンパクトタイプのテーブルがあり、僕はいつもの席に座って、君が今まで座っていた座椅子をじっと眺めていた。 「君……1度でもいいから名前で呼んでやればよかった。俊彦って言ったら、返事をしてくれるかな」 ほんとに、そう呼べば返事をしてくれる気がして、何度かうわ言のように呟いてみたけど、やはり返事はなかった。家に帰る気力もなく、君といつも無理やり一緒に寝ていたベッドへ足を向ける。ばふっと倒れ込むとまだかすかに残っている君の香りがふわっと漂ってきてなぜか急にムラっとした。僕はすぐに我へ返り、頭をぶんぶんと振って邪な気持ちを否定する。 何を考えているんだ、僕は。君は大事な親友、今でもそれは変わらないはずなのに…。やはり、どこかで友達以上の気持ちを抱いていたのだろうか?また君に会いたいというこの気持ちは、果たして親友としてなのか、それともそれ以上の感情を持ってしまったからなのか。君に触れれば、答えが出そうなのに。肝心の君がいないのならば、僕はこの感情をどうすればいいのだろう…?なぁ、君。一体どうしてくれるんだ。 次々と溢れ出る想いに頭を抱えながら僕はゆっくりと現実から意識を遠ざけていく。深く暗い海の底のような闇に飲み込まれ、僕は現実から逃げるように幸せな夢を見ていた。
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