わたしの名、あたしの名

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 ベッドランプの淫靡な色彩が、ほのかに視界を包み込んでいる。ふうっ、と口元から温かい煙を吐き出すと、甘酸っぱい香りのしていた部屋が、紫色の匂いに染まった。数分前まで煮えたぎっていた躰は、時を置いて、今少しずつ冷たくなり始めていた。 「ねえ、」  右側に横たわっていた男が耳元に口を寄せ、少女のような声でささやく。派手な部屋の小さなベッドの上、間合いを詰めたふたつの躰の窮屈さが心地良い。 「ん?」  右手に持っていた煙草の火をもみ消し、色素の薄い男の頬に、戯れに唇を当ててから聞き返した。男は少し微笑んでから、 「最近あまり元気がないね。何かあった?」 と遠慮がちにそう聞いてきた。思わずその男性ともつかぬ華奢な肩を抱き寄せると、上気した躰から肌の匂いがした。 「ああ……」  なんと返せばいいのだろう。今度のことに男を巻き込むのは何となく気が引けた。自分が直面した苦悩に、大切な彼を巻き込みたくない。その感情は極めて純粋なものだったが、深く突き詰めると、この今生の歓びを下手なことで手放したくないという、きわめて身勝手なもののようにも思えた。それで仕方なく、 「ちょっとねー……。しばらく会ってない友達に顔見せたら、あまりうまく話せなかったのよ」 と、核心に触れないように逃げてみせた。 「もしかして……」 「あんたが気にすることじゃないわ」  なおも追求しようとする男を封じ込め、それから言葉を続けようとする彼の口に自分の舌をねじ込んで征服した。 「ん」  甘い吐息が口の中に流れ込む。 苦しそうなふりをして、しかし嬉しそうに男が悶えた。夜は未だ終わりそうにない。
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