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――この拳を、撃ちこみたい。
あいつの顔面に。
数馬はずっとそれだけを願い続けていた。
まるで祈るような気持ちで、毎日、ひたすらサンドバッグを殴りつづけた。
数馬は小学生の頃からずっと空手をやっている。
近所にある、日比谷道場に通っている。
伝統派から始まり、高校生になった現在はフルコンタクト空手である。普通の空手では、相手の顔を殴ってはいけないルールになっている。
だが、フルコンタクト空手は、相手の顔面を殴ってもいいのだ。
しかし、フルコンタクト空手といっても、制限がある。
フェイスガード。
選手は透明なプラスティックのガードで顔面を覆っており、拳は怪我をしないよう、グローブを装着しなければならない。
裸拳――つまり素手で相手の顔面を撃ってはいけないのだ。
だが、数馬はそれをやりたかった。
あいつの顔面に撃ちこみたかった。
まだ子供だった時代から、ライバルだった男だ。
相手はそう認識していなかったかもしれない。
殴りたい相手は、親友だった男だ。
木下誠一郎。まっすぐで気立てのいい、爽やかな男だ。
それだけに女性の取り巻きも多い。
むろん、それに嫉妬するほど、ねじくれてはいない。
ただ、負けたくなかった。
あいつにだけは、負けたくなかった。
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