番外編 意味の無い午後

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番外編 意味の無い午後

 もうすぐ夕日が沈む。金髪のまだ若いであろう青年は肩に四歳ぐらいのまだ幼い少年を乗せて家路に向かっていた。少年の髪は緑色で、時たま青年を「お父さん」と呼んでいることから親子にも見えるが顔立ちは余り似ていなかった。  青年は空と同じ色の瞳で息子を見上げながらにかっと笑った。息子は少し元気がないようで申し訳なさそうに目を伏せ一言「ごめんなさい」と言った。少年の手足はところどころ擦り剥けており、血が滲んでいた。 「どうしてお前が謝るんだ?」  若い父親は不思議そうな顔をする。黒いシャツに黒いエプロンといった黒づくめの服装はこの青年のあっけらかんとした口調や雰囲気とは絶妙にあってはいない。 「……わるいこ」  青年は首を傾げ、少し考えてぽんと手をうった。 「ああ、あの子達、悪い子だったのか。だからお前にあんなことをしたんだな」 「……ちがう、ぼくが」  言いかけた少年の頭をぽんと青年は叩く。 「どうしてお前が悪い子なんだ?」  瞳に浮かんでいるのはまごうこと無き疑問符(ぎもんふ)で、少年は躊躇った。どう答えていいのか分からない。 「悪い子なんかじゃないぞお前は」  青年は肩から少年を降ろすとぎゅっと胸の前で抱きしめた。 「誰がなんといおうとお前はいい子だ。俺の可愛い息子だ。他のやつが悪い子だっていうなら無視しろ、相手にしなくていいんだよ。どうせこの世は他人と自分なんだから、好き勝手に生きてなきゃ損するぞ」  少年は「うん」と頷きながらも表情を硬くした。父親が優しければ優しいほど、強ければ強いほど胸を行き来する痛み。  もし立場が逆だったとしたら、この若い父親は言葉の通り相手にしないだろう。自分のことをからかうやつも、気に入らないといってちょっかいを出してくるやつも。村の用心棒として腕っ節もたつこの人に怖いものなどないだろう。
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