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ぐじゃっ!
砕ける音と血の飛沫。
板に両手で叩きつけられた船員の頭がただの肉塊に変わっていた。ソフィアの両手が閉じている。叩きつけた直前に挟んだ顔を握り潰していたのだろう。両手を頭上に掲げ、手の中に残った液体を口の中へと滴らせる。
「ば、化物……」
余りにもの異常な光景に動揺した者達に浴びせられるのは、血霧だ。目をやられて銃を上げた者から潰されていく。
中には喉を食いちぎられた者もいた。
「……訂正してやる、お前は獣じゃない、怪物だ」
船長一人になるのに時間はかからなかった。
「怪物のお前が一人でどうする気だ。俺まで殺せば本当に一人だ。家族の俺だけがお前を愛してやれる。まだ、今なら許してやる。
お前は誰かが飼わなきゃあ、生きてることすら許されない」
船が大きく揺れた。嵐が近い。雷鳴の音がする。
「また、一つ聞いてもいいかい」
誰の方を向きもしない。俯いたままソフィアは呟いた。
「あたしはまだ……綺麗かい」
「何を言っている、お前は薄汚れた怪物だ。だが、そんなお前でも俺は愛してやれる」
「綺麗だ」
船縁に凭れかかれながらガーナは呟く。
「いや……今の方がずっと、貴方は綺麗だよ」
「……そうかい」
二分ばかりに振り向いたソフィアの横顔は妖艶とした大人でも、狂気に満ちた怪物でもなく、年相応の少女がめいいっぱいの嬉しさを表現とするような海底に差し込み底から照らし出すような満面の笑顔だった。
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