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男達が死んだ後、行き場の無い怒りがどこへ向かうのか。
それは想像に固くなかった。カシューの足は真っ直ぐとまだ無事な壁へと向かっている。
「おい、やめろ」
壁を蹴り砕いていく。一心不乱に振り乱す髪から覗く瞳には何の光も映っていなかった。
カシューを羽交い締めにして壁から引き離す。
「離せ!」
「こいつらと心中する気か」
「お前に、お前に何が分かる。僕は……たった今、母から貰った腕を足を魂を汚したんだ! 最後にこれを、これを始末しなきゃ」
必死に叫び、振りほどこうとするが、足に比べて腕の方は然程力が無いようだった。手錠は悲鳴を上げるものの壊れるには至らない。
「これってのは……お前の事か」
「他に何がある」
「だったら」
俺はカシューの羽交い締めを解き、手錠を壊した。
「俺も壊せよ。共犯だろ」
正直、俺は男達よりもこいつの方にそそられた。足だけで全てを砕くその脚力。
「ただ、ま。壊されてはやらないけど」
俺とどちらが強いのか。
鋭く研ぎすまれた眼光。回転を帯びた蹴りを俺は拳で迎え撃つ。完全な相殺。
ああ、やっぱりこいつは強い。
血が沸き立つのを感じた。
「……終わりぐらい、俺に決めさせろよ」
「あんな奴ら相手に終わらせてもったいねえとおもわねえのかよ」
カシューは地面を蹴った。
しまった。てっきり向かってくると思ったのに、カシューはそのまま壁に飛んだ。
廃墟の壁はもう穴だらけだこれ以上、衝撃があったら。
砕かれる壁、廃墟全体がぐらりと揺れた。壁中を走り回る亀裂。
天井が落ちてくる。
着地した地面でカシューはただ立ち尽くしていた。これで全てが終わったかのように。
俺は、カシューへと手を伸ばして体を抱き込んだ。
「離せ!」
「離すか!」
破片が体に容赦なく降り注ぐ、壊れた天井が背を、頭を強打する。全身が痛い。足が痛いとか言ってる騒ぎじゃない。
だが、俺には耐えられそうだった。
「良かった。盾には、なれそうだな」
音を立てて廃墟は崩れ去った。
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