第四章 死に逝く空の彼方に

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第四章 死に逝く空の彼方に

 朝日が登る。  陽に照らされて、プラチナブランドの髪は流れるように棚引いた。  空を見上げたカシューの表情は俺には分からない。  廃墟には無数の肉片。ここで何があったのか、恐らく想像がつくものもいないだろう。こんな世の中だ。こんなごろつきが消えたところで気に止める者達もいない。 「ああ」  遠い記憶を呼び起こされる声だった。 「空は死んでいる」  見上げるカシューの目に映る空と、俺の目に映る空は違うらしい。  言葉が、声が物語る。  それでも、まだ希望はあると俺は感じた。カシューの声から生気が完全に失せているようには聞こえなかったから。  遠い昔に聞いた声とは若干違う。  カシューの声にはまだ、奥底に熱を秘めたような焦れったい野暮っぽさが残っていた。まるでその向こうを、死んだ空の向こうにまだ希望を残すように。 「生きた空を見たくはないか」  気がつくとそんな事を呼びかけていた。 「……無いよ」  視線を落としてカシューは低い吐息を吐く。狭い狭い牢獄に閉じ込められた息苦しさ。 「あるさ」  届かないかもしれない。  だが、勿体無いと思った。  こんなにも空の光に愛される綺麗な髪をしているのに、空の青よりも澄んだ瞳をしているのに。頭上に広がる汚染された灰色の空に、心まで飲まれていくのは持ったないと。 「俺は見てきた」  だから、伝えて行こうと思う。俺の声が届かないなら、実際に見せて伝えればいい。  俺の空はこいつの空とは違うかもしれないが、それに果てしなく近い空は見せてやれるかもしれないのだから。  伸ばした手にそっとカシューも手を伸ばした。 「返すよ」  置かれたのは俺の財布だ。 「おお、忘れてた」 「お前、暴れたかっただけだろ」  顔を向けて笑うと、カシューは呆れてため息をつく。 「……で、どこ行く気」  どこへ行くは考えて無かった。考えて、俺は空を見上げる。 「雲の流れる方なんてどうだ」 「そっちは逆だよ」  そうして俺達は歩きだす。  死に行く空の彼方に、広がる空を探すために。
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