第三章 復讐と依頼

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第三章 復讐と依頼

 街の一角で、俺は怖い顔の兄ちゃん達に囲まれていたカシューを見つけた。  下卑た笑み。手にしている手錠。  呼びだされたカシューの運命は俺が見てきたものときっと変わらないものなんだろう。  遠目に見ても、女にしか見えないその美貌。需要はどこにでもある。  大人しいカシューの様子を観念したと捉えているのだろう。男たちは油断しきっていた。  汚い手をカシューに伸ばす。  これは、不味いな。  男の一人がカシューの手を手錠で固定し、もう一人が品定めをするように顎を持ち上げた。息がかかりそうな距離。  俺は、男を突き飛ばすようにしてカシューとの間に割って入った。 「邪魔するなよ」 「お前、人を殺す気か」  受けた俺の腕が悲鳴を上げている。骨にヒビくらい余裕で入っただろう。  しかし、なんっつう。  いくら足が自由だつっても、即座に蹴りなんて繰り出せるものなのか。  予想はしていた。  俺が腕を掴んでも、痛がらなかったその時点で気がついてはいたんだ。  こいつは俺と同じ、壊れた子供だ。  奇形腫という化物が世界に現れだして数百年、追うようにして人間の中に能力者というものが目覚め始めた。そしてそれを対抗するように現れ初めたのが、俺やこいつのような壊れた子供だ。  普通の人間が死ぬような毒で死ななかったり、普通の人間では必ず入るストッパーが聞かなかったり、筋力が生まれつき高かったり。  そういった子供達。 「……どけ、俺はゴミを掃除するだけだ」  言っても無駄か。  こいつは母親を殺されているんだ。しかも、その母親が家に居たということは、その目で死を見届けていたんだろう。  親のいない俺に、その気持ちは分からない。  ただ、一つ分かるのは。 「ここで殺したら、お前もこいつらと一緒だ」 「だからどうした!」  回転して離れた回し蹴りは、両手でガードした俺の腕に痺れ以上のものを齎す。両足のふんばりが聞かなかったら、危うく背後にいる男を壁に挟んでぺちゃんこにするとこだ。 「母さんは汚かった」  吐き捨てるようにカシューは言った。 「けど、誰よりも気高く咲き誇っていた。それを、むしり取るように潰したのはこいつらだ」  カシューの怒号は廃屋に響き渡った。 「蝿を潰して何が悪い」
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