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君が僕のもとへ戻ってくる度に赤く腫らした目を見なければならないのは辛いけど、冷やしタオルを渡す度に君はまだ涙の残る目を細めて、失恋する方に賭けていたわね、とわざとらしくおどけて見せる。
だから僕は君が告白する日に必ず冷やしタオルを持っていた。
でも、その日、タオルが君に渡ることはなかった。
「お付き合いすることになりました」
珍しく改まった君は耳まで赤く染め上げ、ぎこちない笑顔で報告してくれた。
悔しくもあり、嬉しくもあった。
「おめでとう」
結婚式も披露宴も二人は幸せそうに笑っていた。
僕は君の相談相手からは下りることになったけど、名残惜しさよりも安堵感の方が強かった。君を笑顔にできる相手が傍にいた方がいいことは確かで、決して君の泣き顔を美しいと思ってしまった僕が傍に居座っていいわけがなかったんだ。
僕は君を思うと怪物になる。
完全な怪物になる前に君から離れたかった。
「聞いてくれるだけでいいの」
だから君が目に涙を溜めながら現れたときは恐ろしかった。
「旦那が海外から戻ってこないの。行方不明だって、痕跡もあまりないって警察が」
「気を強く持たないと、彼が帰ってきたときに悲しむぞ」
「そうね」
「君の魅力を分かっている人なら這ってでも帰ってくるさ」
「信じて待つことにするわ、ありがとう」
君を見ているだけで幸せだった。
待つ君は外を見つめて呟いた。
「雨なのに晴れた。狐の嫁入りね」
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