エピローグ 藁の人形

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ある男がいる。その男は荒野の隅に佇んでじっとしているわ。何もせずじっとね。 傍から見ればそれはもう死んでいるだけのただの物という風には見えるものの、時折その目が閉じるものだから辛うじてそれが呼吸をする生き物だということに気づく。 もしかしたらそういう人形なのかもしれないと考える人もいるだろうけどそんな人に構ってはいられない。 彼はいつか足をあげて、歩き出すと私は期待するものよ。それはどれくらい先のことになるかわからないけど、でも絶対そうなるの。そうなのだもの。 彼は遠くをじっとみながら何をしていたかと言えばそうね、さっきまで夢で見ていたとある女性のことをなんとかして忘れようとしていただけなのかもしれない。 その夢はどんなものか?それはどんなものなのでしょうね。そしてその女性はどんな人にあたるのか。それは彼に直接聞いてみないとわからないし彼もまた誰なのか。気になるのだとしたら彼の傍らにある大きな袋を見てみるといいわ。それはきっと彼の荷物だろうし、彼が何なのかを示すいいヒントにはなるのだろうから。 それは袋ではあるけど開封して中の荷物を見ることは決してできないの。手間暇かけて何十にも生地が重ねられたもので、手を中まで差し入れることは容易にはできないつくりになっている。そうなればその中身がなんなのかが急に気になって来てはしまわない?しまうわよね。 どれほどのものが入っているものか、こちらだって手間をかけてゆっくり中身を暴いてあげたくもなるものだけどでも、やっぱり中を見ることはできないの。絶対に。袋がそうなっているから?いいえ、彼がそうさせてくれないの。 そう言うからにはそれは彼にとって余程大事なものと思おうとするのはごく自然なことよ。でも全然そうではないの。だからその中身はね・・・、 いいのよ。どうせそのようなものだし中身を言ってしまったところで怒られもしないと思っていい。きっとそうだし、もしもそうなものなら私とあなたの二人で彼に謝ればきっと許してくれるわ。まあ恐らくその時にはあなただけを置いて私は逃げ去ってしまうものだろうけど。 まあいいじゃない。万に一つ、彼も実のところその中身を人に知って欲しいと思っているものかもしれないし。その中に入っているのは人形なの。
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