エピローグ 藁の人形

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いいえ、正確に言えばそれはまだ産まれてもいず、そうなる前のもの。繭と言えばわかりやすいかしら。まあそれよりそれは芋虫の形状にずっと似ているもので、身体のくねらせ方とかモゾモゾとする様子がまるでそう。 でもやっぱり産まれる前なのは、万が一それが産まれ落ちることがあれば大きな災厄が起きると言われているものになるから。そういう意味でそれは災厄の兆候とか象徴だと言われることもあるわ。そう言われるのも仕方ないような代物。 そしてそれを抱えて旅する人、彼はそれを捨てるよう使命を与えられた騎士になる。かといってあなたはもしかしたらって考えた? それはいったい姫と誰との子なのかを想像したあなただったらそうではないわ。それは姫と騎士との子ではない。彼はやってはいけないことをした罪人なんかではないもの。彼はやらなければならなかったこと、果たさなければならなかったことを果たせなかった騎士ね。 彼は守るべき人が災厄の繭を産み落とし、その責を背負って遠い場所に捨てに行くことになった人。自分の命を使ってね。 しかし彼は捨てる方法を知らされているわけではなく、それは誰もやったことが無いこと。彼自身が方法を探しては模索し続けなければならないの。 それは終わりも見えない旅だけど、旅する間、旅をする限り彼の命は尽きることはないものよ。それはとても不思議なことだけど、命を与えられているだとかきっと人形の中身がそうしてくるのだと彼は、災厄の繭とはそういうもの、そういうことをするものだと彼は思ったりするの。 それは命でも無いのかもしれない。例えば胸を焦がすような夢、女性に関するものやなにかそういうものを瞼の裏に見ることで、あるはずのない希望を持たされ死んでも旅を諦められなくされたりするのであったりね。全て繭の思った通りのことに。 そんな命でない何かに置き換えられてなおその意思で歩みを続け、役目を果たそうとする彼の目的ならそれがなんであれ果たされて欲しいと思ってしまわない? 例えば長い旅の果てにとある場所に行きついた彼は誰かと出会ってね。その誰かが繭の中身をきれいさっぱり消し去ってくれるとか。もしくは意図してそうしたわけではなかったとして、結果として彼が望んだ通りのことになればそれでいい。 でもそうなったところで彼はこうも思ったりするの。
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