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彼は私と別れた事を、少しくらいは惜しいことをしたと考えているだろうか?
そんな事が一瞬頭を過ったけれど、直ぐに馬鹿馬鹿しくなり、考えるのをやめた。
そして少し歩き始めたところで、ハッと気が付いた。
「...私ったら、コーヒー代払ってないや。」
いつの間にか出来ていた、食事代は彼が、お茶代は私が支払うという、暗黙のルール。
でもまぁ、いいか。
最後くらい、奢ってもらっても。
だって私はあなたの為にこれまで、貴重な時間と労力を費やしてきたのだから。
慰謝料としては、破格の出血大サービスといえるだろう。
「…さよなら。」
誰に言うでもなく一人呟き、首に掛けていた金色のネックレスを外すと、それをじっと見つめた。
彼から貰った、このネックレス。
これは、どうしたものか...。
リサイクルショップに持ち込もうかと一瞬考えたけれど、それだとうっかり買ってしまった人が可哀想な気がする。
なんて言うか...縁起が悪いじゃない?
うーん、可燃ゴミでいいんだっけ。
今度の回収日までに、調べておかなければ。
だってこれはもう、私には必要のないものだから。
まだ自身の体温が残るそのネックレスを、少し乱暴に鞄に放り込んだ。
雨はもう、すっかり上がっている。
そして空には、うっすらと美しい虹が架かっていた。
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