ずるい人

3/3
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
彼は私と別れた事を、少しくらいは惜しいことをしたと考えているだろうか? そんな事が一瞬頭を(よぎ)ったけれど、直ぐに馬鹿馬鹿しくなり、考えるのをやめた。 そして少し歩き始めたところで、ハッと気が付いた。 「...私ったら、コーヒー代払ってないや。」 いつの間にか出来ていた、食事代は彼が、お茶代は私が支払うという、暗黙のルール。 でもまぁ、いいか。 最後くらい、奢ってもらっても。 だって私はあなたの為にこれまで、貴重な時間と労力を費やしてきたのだから。 慰謝料としては、破格の出血大サービスといえるだろう。 「…さよなら。」 誰に言うでもなく一人呟き、首に掛けていた金色のネックレスを外すと、それをじっと見つめた。 彼から貰った、このネックレス。 これは、どうしたものか...。 リサイクルショップに持ち込もうかと一瞬考えたけれど、それだとうっかり買ってしまった人が可哀想な気がする。 なんて言うか...縁起が悪いじゃない? うーん、可燃ゴミでいいんだっけ。 今度の回収日までに、調べておかなければ。 だってこれはもう、私には必要のないものだから。 まだ自身の体温が残るそのネックレスを、少し乱暴に鞄に放り込んだ。 雨はもう、すっかり上がっている。 そして空には、うっすらと美しい虹が架かっていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!