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海風が冷たい。誰と話すこともなく、堤防で一人、竿を振る。
向こうの波止にも人がいるようだったが、たまにライトを点けたり消したりする車を認識できていただけで、私の目が人影を捉えることはなかった。
水面を揺らすルアーの波紋が、チカチカと光ってみせる。月の光ではない。刺激に反応したプランクトンの青い光だ。
引き潮にざわつく海で、堤防に叩きつけられる波でさえ鮮やかな青に輝いた。ルアーを引いてくれば、軌跡がはっきりと見えるほどに光る。
これだけ大量に発生しているなら今日は渋いんじゃないか。そんな考えが頭をよぎるが、来てしまったからには投げ続けるしかない。
予想よりも低い気温と強い風のなか、慣れない夜釣りはなかなかに堪える。
見上げた空は星で埋め尽くされていた。冬の星座ではいっとう目につくオリオンが抱く星雲たち、日本語で言うところの小三つ星もはっきりと見ることができた。逆に、英雄のその勇壮たる四肢は大勢の星に埋もれ見分けがつかない。
その気になればおうし座やおおいぬ座、カシオペア座だって見つけられただろうが、私はさっさと視線を手元に落とした。よそ見をしているうちに巻きすぎていたようで、手元でドラグがジリジリと音を立てていた。
ふと振り返れば、驚くほど大きな北斗七星が真後ろに掲げられていた。なんとなくもう一度空をあおげば、流星が数度、ちょうど海面のちらつきのようにチカチカと光っていった。
結局この夜のうちに、5、6個の短い流れ星を見た。恐らく前か後かはわからないが、近いところに流星群のピークがあるのだろう。
驚くほどなんの感慨も湧かなかった。それでも、星が流れ切った後で私は願いを呟かずにはいられなかった。
願うことならば
この先誰も傷つきませんように
この先誰をも傷つけませんように
みんな幸せでありますように
私のことしか願わなかったのか。私以外のことしか願わなかったのか。
分からない。分からないけれど。
私は確かにそう、願った。
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