152人が本棚に入れています
本棚に追加
/248ページ
瞳が血走り、涙を流す男に対してホリィは落ち着くように促すが、男は興奮を収める様子もなく冒険者ギルド全体に響くような声でこう言った。
「帰ってきたんだよ! 渓谷竜ジアが! ドラゴンが!」
その言葉を聞いた瞬間、凍り付いていたギルド内の空気が更に凍りついた。
渓谷竜ジア。この名を知らぬ者はこの街にいない。
5年前の悪夢の再来。多くの命と金を奪っていったその竜は、名を聞けば熟練の冒険者ですら裸足で逃げ出すと有名である。
ホリィもその名前を聞いてヒクッと表情を引きつらせた。
「と、とにかく詳しい事情は支部長を呼んでからお伺いしますから! ジュリー、支部長呼んできて!」
「…分かったわ」
ジュリーが支部長を呼ぶために部屋の奥へと向かう前に、明らかにアンタが余計な事言うからこうなったというような責めるような視線を向けられた。
断じて違う。
あんな目を向けてきたジュリーに後で何と言ってやろうかと考えつつ、ホリィは目の前の男の手をどうするかと頭を悩ませるのだった。
最初のコメントを投稿しよう!