第一話

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子どもたちを其々(それぞれ)の家へと送り出してから雨が降ってきたので、ほっと一安心していたところだった。 手習い所は先刻(さっき)までのけたたましさが幻のように、ひっそりと静まり返っていた。 今はただ、子どもたちの汗ばんだ土臭いにおいが、(ほの)かに残っているだけだった。 小夜里は入り口まで歩いていき、戸の隙間から外を覗いた。 門の下に(はかま)姿の男の後ろ姿が見えた。 「……大方(おおかた)、雨宿りでもしておられるのであろう」 小夜里はそう呟いてから、振り返った。 その後ろでおきみ(・・・)も、背伸びして(いぶか)しげに外を覗き込んでいた。 「おきみ、夕餉(ゆうげ)の支度が済んでおるのなら、もう家へお帰り」 小夜里は微笑みながら、そう指示した。
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