第三部:その時を待ちながら厳冬に事件が続く

2/40
前へ
/40ページ
次へ
寝ぼけ眼を擦る木葉刑事も、ジャージにネクタイを回すだけしてコートを羽織った。 二人して留置場に向かえば、夜勤をしていた警察官に迎えられ。 「波子隅が、朝に叫び出しまして。 木葉刑事、貴方を呼べと喚くのです」 「ふぅん」 頷いた木葉刑事は、波子隅の居る留置場へ。 鉄格子にへばりつく波子隅は、木葉刑事を見るなり。 「おいっ、たっ・助けてくれっ! 居るっ、い・いっ、居る。 あの女が居るっ!」 平常心など見失った、恐怖に戦く顔をして言う。 手を伸ばして、胸ぐらでも掴まれそうだ。 何故、波子隅がこうなったか、理由は解っていた木葉刑事。 呪う者を視せたのは、紛れもなく自分である。 が。 「女って、何処に。 大体、どの女さんで?」 完全にすっ惚けた。 泣き顔になる波子隅で。 「あんたが言っただろっ!? 俺がアイドルを殺したってっ!!」 これまで頑なに供述を拒んで来た波子隅が、自分からこの話を持ち上げる。 だが、呆れた顔をして見せる木葉刑事。 「おいおい、自分は殺ってないって言い張ったのは、御宅じゃないの。 今更に認めるのかよ」 「認める、認めるともっ! たっ、逮捕、逮捕してくれっ!」 驚く警察官達に、里谷刑事や起きた別の刑事も眼を覚ましてたじろぐ。 だが、木葉刑事は遣る気も無さそうに。 「全く、正月の朝だからって、警察をからかって遊ぼうって腹じゃないだろうな。 昨日まで供述を否定していた奴が、いきなり手を返すなんて信じられるかよ。 然も、時効かも知れない案件を喋るなんて、舐めてるに程がある」 全く以て信じられない、そんな態度すら見せた木葉刑事。 「頼むっ、何でも話すっ!」 「何でも話す? 何を話すって言うんだよ」 「あのっ、自殺した女子高生に薬を飲ませて抱いたのは、間違いなく俺だっ。 殺されたあの女は、俺に薬物を盛れば自由に出来ると言った! 無理矢理に飲ませはしなかったが、親にばらす、あの淫らな映像を世間に撒くと脅したのは、確かだっ!」 完璧な自白である。 慌て始めた刑事が美田園管理官に連絡すべく、泊まっている尚形係長の元へ走った。 だが、木葉刑事は寧ろ覚めて。 「“自白が証拠の王様”、なんて時代錯誤だよ。 明らかな物証なくして、何が“認める”だ」 と、去ろうとした。 「待てっ! 俺のやった証拠は在るっ!! 頼むっ、言うから調べてくれぇぇぇっ!!」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加