第三部:その時を待ちながら厳冬に事件が続く

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第三部:その時を待ちながら厳冬に事件が続く

       5 明けた翌日、一月一日、元日。 元旦になり、静な捜査本部には誰も居ない。 泊まり込んだ捜査員は数名で、早朝に起きているのは夜勤番の3・4名だけだろう。 だが、留置場はどうかと云うと。 「うぅ…」 毛布を被って踞るのは、波子隅だ。 他の逮捕者とは隔離された波子隅は、一人なのに怯えているかの様だ。 (何でだっ、何であの女どもが見えてるっ!) 雪の降る朝、薄明かりが窓より差し込む時間帯。 幽霊など視える時間帯じゃない、と彼は思う。 だが、毛布を軽く避ければ…。 「ひっ」 壁際にへばりつく姿で、怨めしげな顔の女性が此方を見ていた。 毛布を被った波子隅は、確かにその女性の顔に見覚えがある。 (馬鹿なっ! おっ俺がっ、この手で殺した女がぁっ、何でこの場所にいるっ? あの刑事、何をしたっ) 死んだ筈の人間が視えている。 1人ではなく、全部で4人ほどだ。 3人は女性、1人は男性。 女性の1人は、確かに波子隅が直接手を下して殺害した。 また、別の1人は、自分の所為で自殺した。 残る男性と別の女性は、他人と共謀して殺害した。 波子隅が毛布を被っていると。 波子隅とは関係のない形で、モゾっと背中の毛布が動いた。 (ん゙?) 壁際の折り畳まれた布団に背中を預けていた波子隅だ。 己の肩より下で、何かが動くなど予想もしない。 そっと、毛布を外して自分の後ろを見た。 其処に、怨めしげに此方を見てくる別の女性の霊が居た。 「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!」 元旦の静寂を突き破る、波子隅の大絶叫が留置場に響き渡った。 …。 朝の7時過ぎ。 「木葉さん、木葉さんってっ」 里谷刑事に揺さぶられた木葉刑事は、警察署の体育室の畳の上で寝ていた時。 「うぅん、なぁんですかぁ? 里谷さん、合コンなら御一人でぇ…」 「うるへぇっ、事件で合コンは御預けだワイっ! ・・じゃねぇっ、起きろっ!」 布団と毛布を剥ぎ取られた木葉刑事は、肩を抱き締め寒そうにし。 「もぅ少しぃぃ、寝かせて下せぇ、女王様ぁ…」 「鞭もロウソクもハイヒールも持っとらんっ!! 波子隅がっ、お前を呼んどるンじゃあっ!!」 ジャージ姿の木葉刑事を、コートだけ羽織った里谷刑事が無理矢理に起こした。
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