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愛に祈る
―――これは信仰にも似た恋の話。
◆SIDE吉原圭◆
「今日も一日よく働いた」
オレ、吉原圭は少しだけため息をついた。
体育館よりも少し狭いくらいのリハビリテーション室。自動ドアのスイッチをオフにして鍵を閉める。裏口から外に出て、ふと空を見上げた。
星の瞬きなど滅多に見ることができない都内のリハビリ専門病院で、オレは理学療法士として働いている。
理学療法士の仕事は、屋内の土方なんて言われることもある。障害を負うことを余儀無くされた患者の心の復権をしながら、身体の回復を促すのはかなりエネルギーを消耗してしまうからだ。
自転車にまたがって、鞄のなかにデジタル一眼レフが入っていることを確認した。
身体も心も疲れているが、今から愛しい人間に会えると思えばそれも吹っ飛ぶというものだ。勢いよくペダルを踏む。彼の事を考えるとペダルがどんどん軽くなる。頬を撫でる夜風が心地よい。
……というのが昨日までのオレ。
今は泥の上を走っているかのようにペダルが重い。
年下の恋人である瞬と喧嘩したことを反芻しながら、オレは暗澹たる気持ちでペダルを踏んでいた。
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