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恋人の天間瞬は三十歳のオレに対し二十二歳で前途有望な大学生。目下就活中でスポーツメーカーから内定が降りるか降りないか……本人は自信が無いと言っているが、オレが人事だったら即採用にしている。
見目よく明るくて気が利いて、オレには勿体ない程のいい子なのだ。もちろん賢い。
そんな瞬が落ちるわけがない、というか落とした奴がいるなら密かに箪笥の角に足の親指をぶつける呪いをかけてやる。
それはさておき。
瞬との出会いは陸上競技場だった。
カメラで陸上競技を撮影することを趣味としているオレは、いつものごとく近所の競技場に立ち寄り、練習する学生たちを撮影していた。もちろん、責任者に許可を貰った上で。
陸上の中でも特に、短距離はいい。機械や道具を使わない、己の肉体だけで最速を目指す所にロマンがある――というのは建前で、短距離選手をやっていて足をダメにしたオレが、己の理想を写真に収めてて溜飲を下げているだけのこと。
そんなのは自慰行為と何ら変わらない。
いつまでも未練がましいものだと、自分を嫌って撮影を止めようと思っていたある日、彼が視界に飛び込んできた。
ファインダーから視線を外そうとした刹那、鮮やかな光が射し込んだのだ。
少しだけアンバランスだが走ることに特化した体躯。空気を切ってしなやかに伸びる手、生命エネルギーに溢れた地面を蹴る足の力強さ。前だけを見据えた瞳。
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