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……そう、この時までは良かった。
美園はキレイな顔立ちをしているから、オレも警戒心を弱くしてしまったのかもしれない。
何気にオレ、美形好きだし。
そして祖父の家に帰り、何となしにあの邸のことを聞いてみた。
祖父から聞いた話はこうだった。
あの邸に住んでいるのは、とある権力者の愛人とその子供なのだと―。
権力者は地位も名誉も立場もあるから、表立って愛人を作れない。
だからこんな田舎に引っ越させたのだと、言っていた。
つまり美園は…その権力者と愛人の間にできた息子。
それが余計に、周囲から避けられていた理由だろう。
だがオレが邸に入った時には、美園しかいなかった。
それはつまり、すでに美園の母親は他界していたということ。
でも表沙汰にはならず、美園はそれからたった一人で生きていた。
孤独を埋める術は、芸術品を作ることだけ。
元々母親も絵描きで、でも美しかった為にモデルもしていたらしい。
そこで美園の父親に眼を付けられたのだと、美園は苦笑しながら言っていた。
「美園は…憎んでいるのか?」
誰かとも、何をとも聞かなかった。
けれど美園はオレの言いたいことを察したらしい。
「別に。わたしが憎んでも、どうにもならないだろう」
美園が今、芸術家として成功しているのは少なからず、父親の力もあるらしい。
母親が亡くなってから会いに来ないものの、一応気にはかけているらしい。
「…でも寂しいだろう?」
「寂しい?」
「ああ。人を憎むことも、愛することもできないなんて…寂しいと思う」
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