蝉の声

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蝉の声

 今日も朝から蝉がうるさい。  ジーワジワジワ。ジーワジワジワ。  世間的には違う擬音が当て嵌まるのだろうけれど、俺の耳にはそう聞こえる蝉の鳴き声。  向かいの家の、真夏の直射日光がこれでもかと照りつける壁にへばりついて、ああまで力いっぱい鳴けるなんて元気な奴だ。  でもそんな所じゃ、おいそれと仲間は寄ってこないだろう。他の蝉達がたくさんいる木陰にでも行けばいいのに。  夏休みだが、出かける予定なんてまったくなく、部屋でボーっと向かいの家の蝉を見ている。そんなことを翌日も、さらに翌日も繰り返す暇すぎる俺の近辺が、数日目にして慌ただしくなった。  夕食の席で母親が口にした、向かいの家のおばあさんが亡くなったという話。  元々かなりの高齢だから、この暑さに体がついていけなかったのだろう。  母親は近所の付き合いで通夜と葬儀に出るようだが、俺には特に関係なく、また部屋に戻って窓の外を眺めた。  そこにあの蝉はいなかった。  通夜も葬儀も近くの葬祭センターで行われるということだが、ひっきりなしに家に人が出入りしているのだ。そんな場所で蝉も呑気に鳴いてなどいられないだろう。  俺自身は暇だが、何となく近所が忙しなかった空気もやがて収まった頃、外から聞こえてくる蝉の声にやたらと意識を引かれた。  声の方向からして今度は裏の家の方にいるらしい。  ジーワジワジワ。ジーワジワジワ。  向かいの家に止まっていたのと同じ鳴き方をする蝉が、裏の家の方で鳴いている。  それを二日、三日聞いていたら、今度は裏の家のおじいさんが亡くなった。  向かいの家のおばあさんよりは若いが、世間的にはそれなりの年齢だから、やはりこの暑さにやられてしまったのだろうと両親は口にした。
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