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仕事を終えてオフィスを出ると雨が降っていた。
「最悪…」
傘を買うのも勿体無い気がして走って駅まで向かった。
この時間の電車はうんざりするほど混んでいる。
既にいっぱいの車内に隙間を埋めるように乗り込んだ。
スーツの人に囲まれる中、目の前にはギターと大きなリュックを抱える人。
1人だけ頭一つ背が高くて、前髪は目にかかり表情が見えない。
こんなに混んでて身動きができない車内で、なにを思ったのかリュックを開け何かを探し始めた。
周りの人に腕やギターが当たるたびに、すいませんすいませんと謝っている。
なにもこんなところで探さなくても
そんなことを思いながら、自分の鞄に目を向けると雨でびしょ濡れになっていることに気が付いた。
奮発して買ったお気に入りの鞄だったのにとがっかりして俯いていると、目の前になにかが見えた。
驚いて顔を上げると、リュックから何かを探していた彼が髪の間からしっかりと私を見つめていた。
「これ…」
彼の手元に目をやると、少し大きめのタオルをぎゅっと握りしめていた。
「ありがとうございます…」
静まり返った車内に私の声だけが響いた。
戸惑いながら受け取って、1番最初に鞄を拭いた。
すると彼は小さく笑った。
私が顔を上げると、私の手からタオルを取って私の肩に広げたタオルをかける。
すぐにその理由がわかった。
少し暖かくなって来て、Yシャツだけで通勤していたが冬の癖が抜けなかった。
派手な色の下着をつけてしまっていたのだ。
それが雨に濡れて透けていた。
6月の雨は私に災難ばかりを降り注いだ。
その雨が良くも悪くも、彼と私を繋げた。
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